会社で恋しちゃダメですか?
「家柄の問題ってこと? どれだけ馬鹿にしたら気が済むの? あいつは、わたしの血のにじむような努力を認めなかった」
あおいが園子をにらむ。長いまつげに涙の粒をつけて。
「あなただって、すぐに引き離される。そうに決まってる」
山科に向き直る。
「彼女とわたし、どこが違うの? 二人でいたとき、あんなに幸せだったのに。愛してるって、何度も言ったのに!」
オフィスが静まり返る。皆が息をのんで、あおいを見つめている。
園子は、早く彼女をこの場から連れ出さないと、と焦りを感じていた。彼女の取り乱しように、みんな恐れをなしている。
「あおいさん、落ち着いて、こちらで話しませんか」
園子は振り払われること覚悟で、手を差し出した。
あおいが再び園子をにらみつける。一触即発の緊張感。
「あおい」
そこに山科が声をかけた。
「以前、俺は君を確かに愛していた。楽しかったし、幸せだったよ。君は奔放で自由で、いつも笑ってた。笑顔がまぶしくて、自分のひねくれた心が、君のおかげでまっすぐになっていくのを実感した。大切だったし、これからも大切だよ」
あおいのこわばった肩から、少し力が抜ける。
「日本に帰ってきたとき、君をあきらめた。確かに苦しんで、何度も君を夢にみて、でも最後には君をあきらめることができた」
山科はそう言いながら、園子の肩を抱く。園子はびっくりして山科の横顔を見上げる。
強い意志。
「でも、彼女だけは、あきらめられないんだ」