会社で恋しちゃダメですか?



TSUBAKI化粧品本社の前に立つ。
見上げると転んでしまいそうな、大きなビル。


山科と二人でエントランスに入ると、花の香りがふわりと漂う。受付の女性は山科の姿を認めると、立ち上がって深く礼をする。山科も「おつかれさま」と声をかけた。


「社長にアポイントがあるんだけれど」
「伺っております。あの役員専用フロア直通のエレベーターでおあがりください」


女性のきれいな手が、ホールの一番奥のエレベーターを指し示す。


園子は山科の後ろについて歩いた。


怖くて仕方がない。
なんでも見透かしていそうな、あの瞳。
威圧のオーラ。


「ビジネスだよ、お嬢さん。わたしが望むものを、君は差し出すことができるか」


考えてみたけれど、わからなかった。自分の中に残ったのは、彼の側にいたい、その気持ちだけ。


ガラス張りのエレベーターが、あっという間に高度をあげていく。山科が園子の手を握った。


「親父と話したんだな」
「はい」
「別れろって?」
「……それに似たことも言われました。でもそれだけじゃなくて、わたしに考えろって」
「考えろ?」
「これはビジネスだから、社長の欲しいものを渡せって」
「なんのことだろう」
「考えましたが、分かりませんでした。でも、わたし、部長の側にいたいです。別れろと言われても、離れません」


山科の指に力が入る。


「辛い思いをさせて申し訳なかった。君のことは俺が守るから」
「はい」


そのとき、最上階のフロアへと、エレベーターが到着した。


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