会社で恋しちゃダメですか?
園子は驚いて「は?」と間抜けな声をだしてしまった。
「成立って……」
「息子をよろしく」
社長が顔いっぱいに笑みを広げる。
「な、なんでですか? わたし、社長の望むものを渡していません」
園子は混乱して、そう訊ねた。
「もらったよ」
「え? でも……わたし何もしてない……」
社長は山科を見つめる。それは実の息子に向ける、暖かなまなざし。
「こいつは、わしとこの会社から逃げるのに必死で、いつまでも覚悟がなかった。日本に帰って来ても、わしに言われるまま仕事をこなすだけで、なんの手応えもない。TSUBAKI化粧品は株式会社だ。実力のないものに、後をつがせる訳はいかない」
山科が思い当たる節がある様子を見せた。
「ここに来てはじめて、こいつは経営者の目線で物事を考え、従業員のために頭を働かせた。そんな息子を、お嬢さんがここに連れて来たんだ。わしが本当にほしいものを、お嬢さんがくれた」
園子の目が熱くなる。
「園子さん、これからも、息子の側にいてやってくれ」
園子は深く頭を下げた。涙が頬をつたって、柔らかな絨毯の上に落ちて行く。
「ありがとうございます」
園子は声を振り絞って、そう言った。
「ありがとう、親父」
山科もそう言って、笑顔を浮かべた。