会社で恋しちゃダメですか?
「力量を見せろ。後継者に押すには、実績が必要だ」
一人が席を立つ気配がした。山科はまだ立たない。
「やっぱり、コーヒーはあそこが最高だ。小さい頃からいいものしか与えていないのに、お前の舌も鈍ったのか? わたしの息子として、恥じないような暮らしをしろ」
園子の横を、少々高慢な男が通り過ぎる。園子はその横顔をじっと見続けた。視線に気づいたのか、その男は少し振り返ったが、すぐに店を出て行く。園子は固まったまま、猛スピードで今の会話、それから見覚えある男の顔について、考えた。
見たことがある。
最近、ネットで見た。
買収されるって聞いて。
TSUBAKI化粧品ってどんな会社かなって。
そうだ。
見たんだ。
社長の顔。
「うそ……」
園子は思わずつぶやいた。
「なんで、池山さんがここにいるの?」
はっと我に返ると、目の前に山科が座っていた。