会社で恋しちゃダメですか?
週末の夜。園子は山科のマンションにいた。
最近は週末をこのマンションで過ごすことが多くなった。以前に輪をかけて仕事が忙しくなった山科を、このマンションでひたすら待つ。会社のトップにいるということは、自分の時間を削って会社に身を捧げることと同じ。園子は十分に理解していたが、それでもやっぱり寂しかった。
ソファに座って、ファッション誌をめくった。
「海外セレブの間でブーム。日本製クリームの底力」
そうタイトルがつけられて、竹永のクリームが特集されていた。
あおいが、海外のファッション業界の友人達に、紹介したことをきっかけに、広まったらしい。山科に「お願いしたんですか?」と聞いたが、首を横にふった。山科もまったく知らなかったらしい。晴天の霹靂。
園子は隣の部屋がある方の壁を見つめる。取り乱したあおいと別れてから、一度も会っていなかった。相変わらず雑誌のなかの彼女は、あの混乱して泣いていた女性と同一人物とは思えないほど、輝いて美しかった。
鍵が回る音がして、扉が開く。
「おかえりなさい」
園子は玄関まで迎えにいく。
「ただいま」
山科がジャケットを脇にかかえて、部屋に入って来た。
「おつかれさまでした」
「うん」
山科はそう言うと、ぎゅうっと園子を抱きしめる。あまりに力が強くて、園子の身体が反り返った。
「つかれた」
「ビールありますよ」
「やった」
山科は園子を離すと、靴を脱ぎ捨てる。まるで子供のように弾みながら、リビングの方へと向かった。