会社で恋しちゃダメですか?
六
もう何度か一緒に夜を過ごした。ベッドの中でお互いの体温を感じながら眠りにつく。最初は緊張していて眠れなかった園子だったが、規則正しい山科の呼吸音を、胸に耳をあてて聞いていると、自然と安らいだ。
ただ、腕を回して、眠るだけ。
山科はそれ以上のことを求めない。
キスも軽く、こめかみや、頬に。
「おやすみ」の挨拶でしかない。
「支度できた?」
鏡の前で化粧水をつけていた園子に、山科が洗面所の外から声をかけた。
「はい」
いつかの出張で買った、おそろいのTシャツを着ている。鏡の中の自分は、年齢の割に幼い。
洗面所を出ると、リビングの電気はもう消えている。二人は連れ立って寝室に入った。
そこは青の世界。深い海を思わせる夜の色が、寝室を染めている。
園子はベッドに腰掛けて、しばらくその美しさに心奪われる。
すると、いつもはベッドに並んで座る山科が、園子の前の床に座り込んだ。
園子を見上げて、そっと手を伸ばす。額にかかる髪を、指で優しくよけて、園子の頬に手を当てた。
「気づくといつも君のことを考えていた。君のころころ変わる表情が、見たくて仕方がなくて」
山科の顔が、青い海の中で、白く光る。ポケットからケースを取り出す。
「他の誰かはありえない」
ケースからシルバーの指輪を取り出した。小さなダイヤモンドがついたリング。園子の手をとって、薬指にそっとはめた。
園子の瞳が熱くなって、涙が一筋、頬を落ちる。
「園子さん、僕と結婚してくれませんか?」