会社で恋しちゃダメですか?



歓迎会は、夜八時にスタートした。


「園子、今日は飲まないの?」
隣に座った紀子が訊ねる。


「うん、今日、花粉症の薬を飲んでるから、まわっちゃうと思うんだ」
「園子はちゃんとしてるねー。わたし、飲んじゃうかも」
紀子はそう言って笑った。


会社近くの、行きつけの居酒屋。焼き鳥が専門で、店内は常に薄雲っている。一番奥のお座敷に、営業部の社員が集まった。園子はオーダーがしやすいように、手前側に座った。一番奥の席に田中専務、その隣に山科部長。


今日の会話を思い出すと、園子はちくちくと胸が痛くなる。今は怒りよりも悲しさが強い。彼のことを、尊敬できる上司だと思っていたのに。


しかも「マスクが似合う」って言われても……。
なんか馬鹿にされたようで、その言葉に気分も落ち込んだ。


山科と目が合った。園子がみだりにしゃべったりしないように、牽制をかけているような視線。園子は眉をひそめて目を伏せる。一口大きくウーロン茶を飲んだ。


TSUBAKI化粧品の社長の息子だなんて、恵まれてる人。
地位も仕事も完璧で、悩みなんかないんだろうな。


園子はふてくされたような気分になり、ウーロン茶をひたすら飲み続ける。心なしか、身体が暖かくなってきたようだ。


「園子、なんでお前、そんなに顔が真っ赤?」
斜め前の席から、朋生が声をかけてきた。「ウーロン茶だろ?」


「うん、ウーロン。多分雰囲気に酔ったんだと思うよ」
紀子が言った。

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