会社で恋しちゃダメですか?
すると、園子の頭を大きな手が優しくなでた。
「辞表を出されても、受け取らないからな。俺が仕事をするのに、池山さんは必要なんだ」
「ほら、泣き止んで。なんか食べるか?」
「……」
「うじうじするなよ」
「でも……あまりにもわたしが愚かで」
「まあ確かに……アルコールの味に気づかないなんて、小学生か?って思うけど」
園子は顔をあげて、真っ赤な目で山科に非難の目を向ける。
山科は慰めるように笑うと「事故だから」と言った。
「池山さんは、最初アルコールを飲まないって決めてたんだろ? じゃあ昨日のことは事故」
山科の手が、くしゃくしゃと園子の頭をなでる。
「朝飯、食おう。食欲ある?」
「……はい」
「よし、じゃあ、おいで」
山科はそう言って、ベッドから立ち上がった。
山科の手は、大きくて、暖かだった。
髪に触れられると、なぜか心が柔らかくなる。
園子は自分の髪を指で触りながら、胸の密かな躍動を感じて、目を閉じる。
「池山さん?」
山科の声で目を開けた。
「あ、ちょっとまってください」
園子はベッドから慌てて立ち上がった。
「なに?」
ドアの前で振り返った山科は、上機嫌のように見えた。
「ずぼん、ください」
園子はやっとのことで声に出す。恥ずかしさで目がちかちかした。パジャマの裾を、おもいっきり手でのばす。
「だって、俺のはおっきいよ。そのパジャマ、膝まであるから、いいじゃないか」
「で、でもっ、ちょっと、駄目です」
園子が言うと、山科が肩をすくめる。すたすたとクローゼットまで歩くと、棚からパジャマのズボンを取り出して、園子に投げた。
「じゃあ、これ」
「ありがとうございます」
リビングへと山科が出て行くのを確認して、園子は急いでズボンをはく。確かに、本当に大きい。裾をぐるぐると折り曲げて、ウエストのところをぎゅっと手で握った。
そしてリビングへのドアを開けた。