会社で恋しちゃダメですか?
「だって、池山さんずぶぬれだし。俺だってそりゃ、気兼ねはしたけれど、お酒まみれで寝かせる訳にいかないだろ」
そう言われれば、園子は反論できない。しょぼんとうなだれた。
「じっくり見てないよ。神様に誓う」
「はあ……」
見られたという衝撃は、稲妻が落ちたぐらいの威力だった。下着姿を見せたのは、高校の時の彼だけ。後にも先にも、その人一人。それなのに……。
「すぐ落ち込むね、池山さん。食べようよ」
「……はい」
スクランブルエッグは絶品だった。ふわふわで、ホテルのレストランで出てくるような感じ。パンは全粒粉とナッツ入りで、歯ごたえがあっていい匂いがする。トマトとルッコラのサラダは、オリーブオイルで和えただけとは思えない味だった。
「おいしいです」
「よかった。ありがとう」
山科が満足そうに頷いた。
「やっぱり、TSUBAKI化粧品の息子さんなんですね」
無意識にそんな言葉が口を出た。
コーヒーマグに手を伸ばしかけていた山科の手が止まる。笑顔がするりと抜け落ちて、真剣な瞳が園子を捉えた。そのまま、取っ手の部分を、人差し指でなぞる。
「皆に、何も言えないのが、苦しいです」
園子は言った。
「本当にもう、どうにもならないんですか?」