会社で恋しちゃダメですか?
「売り上げを達成したら、竹永の名前を残せるように、みんなが働き続けられるように、TSUBAKIの社長にお願いできないでしょうか」
園子は掌を握りしめた。
「売り上げを達成しても、竹永コスメティックは残らないよ」
山科が冷たく言った。
「どうして? わたしたちの商品ですよ」
園子が言うと、山科は溜息をついた。
「企業が残るには、商品だけではなく、企業自体に価値が出ないと駄目なんだ」
山科は言った。
「じゃあなんで、社員にやる気を出させて、売り上げを上げろなんて、そんなこと言うんですか?」
園子は怒りに任せて、語気を強めた。
「僕の仕事は、社員の仕分け。あと商品の価値をあげること。本気にさせないと、社員を評価することはできないと思ったから」
「そんな……」
「池山さんの気持ちも分かるけど、もう無理だよ。TSUBAKIの社長が決めたんだから」
そこで山科はコーヒーを一口飲む。それからあきらめたような笑みを浮かべた。
オフィスでの山科は、自信があって、堂々として、リーダー然としている。けれど今は……。
「食べ終わった? そろそろクリーニングが帰ってくる頃だよ」
山科が気持ちを切り替えるような、明るい声を出す。立ち上がって、園子の食器を下げようとした。
「わたし、洗います。何もしてないんで」
「いいの?」
「はい」
園子は頷いて、食器を手に立ち上がった。何気なく歩き出そうとして、脚がもつれる。
あ、しまった。
そう思ったときには時すでに遅く、すてーんと床に転がってしまっていた。
食器がすごい音を立てる。