会社で恋しちゃダメですか?
通常の事務作業をこなしながら、山科が社長室から帰ってくるのを待った。営業が出払う昼間の、紀子が誘う外ランチも断った。山科が頑張っている間に、自分がのんびりご飯を食べるなんて、できそうにないと思ったからだ。
でも二時を過ぎても、三時を過ぎても、山科は帰ってこない。
「どこいっちゃたんだろうね、部長」
紀子がアサイージュースを飲みながら、そう言った。
話し合いが難航してるんだろうか。
準備したデータに不備があったんだろうか。
いや、そもそも自分がお願いしたことは、大それたことだったんだろうか。
園子がペコペコのお腹を抱えて、不安に苛まれていると「あ、部長かえってきた」と紀子が言った。
園子は慌てて振り向く。山科と目があった。
「池山さん、ちょっと来て」
山科が手をあげて呼んだので、園子はガタンと椅子を跳ね上げて立ち上がった。小走りで山科の後ろへついていく。
扉が閉まると、山科がふうっと大きく溜息をついて、椅子に座る。人差し指でネクタイを緩めて「喉かわいた」と言った。
「コーヒー持ってきましょうか?」
園子が訊ねると「いいよ」と言って、鞄からミネラルウォーターを取り出す。それからごくごくと半分ほど飲み干した。
それから勝ち誇ったような表情で「OKもらったよ」と言った。
園子の顔に笑顔が溢れる。
「よかった。うれしいです。ありがとうございます」
頭を深々と下げた。