会社で恋しちゃダメですか?
「はい」と頷こうとしたその瞬間、園子のお腹が「ぐぅ」と鳴った。
はっとして、お腹を押さえる。
慌てて、うつむいた。
どうしてこう、山科部長には、恥ずかしいところばかり見られるんだろう。
「池山さん、ごはん食べてないの?」
「……はい」
消え入りそうな小さな声でそう答えた。ブルーのカーペットばかりを見つめてしまう。
「し、失礼します」
ぺこんと頭を下げると、「ちょっと待って」と呼び止められた。
山科の顔を見ると、笑っていない。
「どうして食べなかった?」
「タイミングがあわなくて……食べ損ねました」
園子がそう言うと、山科はじっと園子の目を見る。
あ、不思議。
また心臓が動き出した。
山科は鞄からソイバーを出すと、ぽんと園子に投げて寄越した。
「わっ、わわっ」
園子はうまくとれなくて、ぽんぽんとソイバーが宙を舞う。やっと手に持って山科を見ると、今度は笑っている。
いや、微笑んでるっていうのが、当たってるかも。
「どんなに気になることがあっても、ランチは取らなくちゃいけないよ。仕事に響く」
「はい、すいません」
園子は頭を下げた。
「それ食べて、指名リストの人にメールおくって。あとさっきの提案書、池山さんが集めたデータを入力した新しいものがあるから、それを人数分コピーとって」
「はい」
「じゃあ、よろしく」
園子はソイバーを手に、部屋を出ようと山科に背を向ける。
「ありがとうな」
後ろから、そう、声が聞こえた。