会社で恋しちゃダメですか?


朋生の顔に、小さな輝きが産まれる。


「そうですね……ただ、医薬品ではないので、どう取られるか……」
「皮膚科に併設されるエステサロンもある。そういった女性の美を意識した病院を中心に、一度回ってみてくれないか。これは営業部全体で行ってくれ。ただし、このプロジェクトの話は内密で」
「はい、わかりました」
「オッケーが出たら、試供品を置かせてもらうんだ」
「はい」


山科はぐるりと社員を見回した。


「ここからが、肝心だ。広告を打つが、すぐにではない。石野係長」
「はい」
広報部の、石野が返事をする。


「まずは、商品ページに口コミを投稿できるようにしてほしい」
「はい」
眼鏡を直しながら、まじめそうにメモを取る。


「戸崎さん、どれくらいでできる?」
システム部の戸崎は「動作確認も入れて、二週間ってところでしょうか」と答えた。


「よし、なるべく早く頼む。石野係長、同時に、ビューティ系サイトの口コミもチェックしてくれ」
「はい」
「良好な手応えを感じるようになったら、大きく宣伝しよう」


「すみません」
経理部の野田が手をあげた。


「テレビ広告を出せるほど、余裕があるとは思えません」


山科は「だよな」と頷く。
「僕の知り合いに、タレントのメイクを担当してる奴がいるんだ。そいつに、タレントにそれとなく商品を見せてもらう」


「それって、ずるですよね?」
朋生がいぶかしげな様子で訊ねる。


「もちろん、無理強いはしないさ。タレントは化粧荒れしてる場合が多い。奴はいつもいいものを探してる。ここの商品も知ってるはずだし、品質がいいということも、分かってるはず。大丈夫だ、それは僕にまかせて。うまくやるよ」


山科がボールペンをポンポンと資料に打ち付けながら、余裕の表情を浮かべる。それは、まったくの手探り状態で不安を抱えていた社員達に、安堵と自信をもたらしてくれた。


山科は、リーダーとして、完璧だった。

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