会社で恋しちゃダメですか?


その日以来、就業時間以降の残業が当たり前になった。広くて古いこのオフィスの一角だけ、白い蛍光灯が瞬く。毎晩、山科と朋生と三人で、このプロジェクトの全体的な進行を見つつ、打ち合わせをして、資料を作っていた。


園子はコンピュータに向かいながらも、ちらりと山科の横顔を見る。


あ、また、くるっと回した。


園子の顔に、小さな笑みが現れる。
山科と一緒にいる時間が増えると、いろんなことが分かってきた。


ボールペンを長い指で、くるくる回す癖がある。
お気に入りのミネラルウォーターがある。
顔に似合わず、いちごジャム入りのコッペパンが好き。


朋生がうーんと腕をのばす。
「腹へったー」


「わたし、コンビニ行ってきます。何がいいですか?」
園子はメモ帳を出した。


「夜は危ないから、俺がいくよ」
腕まくりをした朋生が、夜遅くにも関わらずさわやかに言う。


「いいの?」
「もちろん」
「じゃあ、何にしようかな……でも、もう品切れ」
園子は溜息とともに首を傾げた。コンビニのメニューがいくら豊富とはいえ、さすがに飽きて来た。


「ちょっと歩くけど、大通り沿いのコンビニ行ってこようか」
朋生が立ち上がる。


「悪いな」
コンピュータから目をあげて、山科が言う。


「いいですよ。部長、何にしますか?」
「そうだな、じゃあ、パンで」
「また、いちごのアレですか?」
朋生がからかうように言う。


「笑うなよ。好きなんだ」
山科が少し照れたような表情をする。


「園子は?」
「じゃあ、新メニューなら、なんでも」
園子がそう言うと、朋生が「園子は意外と挑戦者だよな」と笑う。


「じゃあ、行ってきます」
朋生はポケットに手をつっこんで、軽快にオフィスを出て行った。


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