会社で恋しちゃダメですか?
トイレから出ると、足がもつれる。そのまま給湯室には寄らず、オフィスへと戻った。デスクに戻ると、山科が顔を上げて、眉をひそめる。
「池山さん、どうしたの?」
園子は声が出せない。あうあう口だけが開くだけで、うまくしゃべれない。
「何かあった? どうした?」
ことの重大さに気づいて、山科が席を立って、園子の顔を覗き込む。
「トイレに、人が……。男の人……」
園子が言うやいなや、山科はオフィスを走り出た。
園子もおぼつかない足で、後を追う。
園子が廊下に出ると、バタンッという大きな音が聞こえた。
それから山科の「おいっ」という大きな声。
見ると、男が女子トイレから走り出してきた。ちらっと園子を見ると、そのまま非常階段へと走る。すぐその後から、山科が飛び出して来た。後を追おうと非常階段へと向かった。
園子は恐ろしさで身体を支えることができない。そのまま灰色の壁に寄りかかって、なんとか立っていようと試みる。
しばらくすると、山科が走って戻って来た。
「逃げられた」
山科が口惜しそうに言い捨てる。それから園子に駆け寄った。
「大丈夫か?」
山科が園子の背中に手を回して、支えようとする。
「は……い」
「何かされたか?」
「いえ……」
園子は「見られただけ」と言いかけて、口ごもる。