会社で恋しちゃダメですか?


「ありがとう」
埃くさい空気を吸いながら、礼をいう。振り返って見上げると、すぐ頭上を朋生の腕がもう一つの段ボールを持ち上げていた。


「あ、ごめん、邪魔だったね」
園子は身を屈めて、朋生の腕の下をくぐり抜けた。


朋生は、大きな手をパンパンとはたいて、笑顔を見せる。


「助かっちゃった。どうもありがとう」
園子はもう一度礼を言うと、朋生に背を向けて、戸口に向かった。


すると後ろから「園子」と呼びかけられる。


「なに?」
園子は振り向いた。


「今週の土曜日、映画に行かないか?」
朋生が思い切ったような口調で訊ねる。


「映画?……なんで?」
園子の身体のなかで、予測していない出来事への警戒音が鳴りだす。


「紀子は誘わない。園子と行きたいんだ。意味、わかるよな」
朋生は恥ずかしげにうつむく。


「う……ん」
園子は小さく頷いた。「あの……」


「わわわっ。すぐ断るのはナシ! ちょっと考えてからにして!」
朋生が手を振って、園子を遮る。


「前日までに返事もらえればいいから」
「うん、わかった」
園子は頷いた。

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