会社で恋しちゃダメですか?


「園子くーん」
田中専務が、手を上にあげてひらひらと呼ぶ。


「また呼ばれちゃった」
園子は文句を言いつつ、膝掛けをデスクの上にたたんで置いた。


「いつも大変だね、いってらっしゃい」
「いってきます」
苦笑している顔を田中専務に見られないよううつむきながら、園子はデスクを離れた。狭い通路をデスクを除けながら小走りで通る。


「なんでしょうか」
田中専務の前にたどり着くと、精一杯の笑顔を見せた。


「山科くんのデスク、あのミーティングルームを片付けて、つくってくれないか?」
「はい」
「それから、しばらくは山科くんを手伝ってやってくれ。山科くんの指示に従って」
「はい」
「じゃ、よろしく」
田中はそう言うと、背を向けてパーテーションの向こうへと消えて行く。


園子は隣に立つ山科部長の顔を見上げた。


「よろしくおねがいします」
「園子さん、名字は?」
「池山です」
「じゃあ、池山さん、よろしくね」


近くで見ると、山科はとにかく完璧だった。俳優だと言われても疑わない。このオフィスに似つかわしくない。山科がにこりと笑うと、園子はあわてて目を伏せた。


ただでさえ人見知りで緊張屋なのに、こんな人が目の前にいると更にナーバスになってしまう。

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