会社で恋しちゃダメですか?
気恥ずかしい気持ちで、階段を昇る。隣を向くと、懸命に恥ずかしさを隠そうとしている、朋生の横顔。園子は朋生との距離を、少し開けた。
「池山さん」
上を見上げると、上のフロアの踊り場から、山科が顔をのぞかせている。
「はい」
救われたという気持ちで、明るい声が出た。
「探したんだ」
階段を下りながら、山科がが言う。
「すみません、倉庫に行ってました」
園子は頭を下げた。
山科は園子から朋生に目を移すと、考えるような表情をする。
「俺、行きます」
いたたまれなくなったのか、朋生が階段を駆け上る。園子はその背中を目で追った。
映画、どうしよう。
「池山さん、山本になんか言われた?」
山科が突然、そう言った。
園子の心臓がドキンと脈打つ。
「えっと……」
園子はもじもじとして、下をむいた。自分のおでこのあたりに、山科の視線を感じる。
「そっか」
山科は小さな声で言う。どこか納得しているような素振り。
それから、切り替えるように明るい声で「池山さん、ドレス持ってる?」と聞いて来た。
「ど、ドレスですか? 持ってないです」
園子は突拍子もない質問に、反射的に答えた。
「土曜日、付き合ってほしいところがあるんだ」
山科が申し訳なさそうに言う。「空いてる?」
土曜日は映画の日。
園子は少し躊躇してから、「空いてます」と答えた。朋生には「仕事だ」と言えばいいし、あながち嘘ではない。
「ほっとしたよ。助かった」
山科の顔に、ぱあっと笑顔が広がった。