会社で恋しちゃダメですか?
銀座の和光のショーウィンドウ前で待ち合わせをした。
本格的に暖かくなり始めた春の一日。車道は歩行者天国実施時間のため、ショッピング客や観光客で溢れている。白いシャツに薄手のブルーのカーディガンという、出社するときの格好とさほど変わらない服をきて、園子は今日の予定が何なのか、そればかりに思いを巡らせていた。
ドレスが必要って、なんだろう。
仮装パーティか何か?
「お待たせ」
右手から声がかかった。
山科はブラウンのジャケットに、デニムという格好。髪は会社で見るよりもラフに整えられている。先日見た部屋着とはまた別の山科の様子に、自然と園子の動悸があがった。
「じゃ、行こうか」
山科は園子を促して、大通りを歩き出す。
「どこへ行くんですか?」
「とりあえず、ドレスを買いにいこう」
「買いに?」
園子は、自分のお財布の中身を思って、慌てだした。
「すっ、すみません。今日、持ち合わせがそんなに……」
「いいよ、そんなの。俺が誘ったから」
「でもでも、あ、じゃあ、ツケで」
山科が吹き出した。
「ツケって。飲み屋じゃないんだから」
山科が脇腹に手をあてながら笑う。
園子は、自分のボキャブリーのなさに、うなだれた。確かに、そんな言い方しないかも。
「じゃあ、カシで」
山科が笑いながらそう言った。