会社で恋しちゃダメですか?
一階はカフェフロア。ゆったりとしたソファが並べられていて、座っている人たちも優雅に見えた。
店内には、コーヒーの香りがただよう。見るとテーブルに繊細なカップが見えた。あれが千円のコーヒー。園子は手に汗をかいてくる。
右手には、ケーキのショーケース。細工が繊細で、フォークで切るのがもったいないくらいだ。
山科につかまりながら、エレベーターに乗り込んだ。できれば帰りたい。いますぐにでも逃げたい。園子のそんな思いもむなしく、あっという間にチンという鈍い音がして、エレベーターの扉が開いた。
ゆったりとした音楽。食器が重なり合う音。そして着飾った人々。
二階は広いパーティ会場となっていた。
高い天井にきらびやかなシャンデリアが光る。エントランスで「山科です」と告げると、受付嬢が深々と頭をさげた。園子に合わせて、山科はゆっくり歩いてくれる。ときどきこちらを見て、気遣うような表情を見せた。
会場の一面はガラス窓だった。大通りに面している。山科は園子を窓際へと連れて行った。外を覗き込むと、すぐそこにパレード会場ができていた。
「もうすぐはじまる」
山科が言う。
ウェイターがトレイの上にシャンパンのグラスをのせ「いかがですか」と差し出した。
「池山さん、飲む?」
山科が言う。
「いえ、結構です」
園子は先日の失敗を思い返して、ぶんぶんと首を振った。
「薬のんでるの?」
「いいえ」
「じゃあ、平気じゃないのか?」
「でも……万が一ってことが」
園子がかたくなに言い張ると、山科が「駄々をこねたら、また家に連れてかえるだけだよ」と笑いながらいう。
園子は「意地悪ですね」と言って、口をへの字にむすんだ。
「彼女には、ウーロン茶をもらえる?」
山科はウェイターにそう頼んでくれた。