会社で恋しちゃダメですか?
第三章
一
「園子」
「……」
「園子ったら」
大きく名前を呼ばれて、園子ははっと我に返った。
「どうしたの、ぼーっとして」
紀子が心配そうに言った。
「うん? ううん、なんでもない」
先日から頭から離れないあの出来事を振り払うように、園子は明るく返事をした。
「最近、仕事に夢中だったのに、突然放心しちゃって。なんかあったの? へんなの」
「ごめんごめん」
園子はおにぎりを口に運びながら、相談したい気持ちをぐっと堪えた。
本当は、あの山科の行動が何を意味するのか、紀子に聞いてみたかった。
ランチタイム。居残り組の園子と紀子は、デスクでおにぎりをほうばる。営業のほとんどが出払っていて、空気はシンと静かだ。
山科は外出中。園子は少し安心する。どうやって接していいのかわからないからだ。
紀子はファッション雑誌をペラペラとめくりながら、弾丸のように話している。園子はそれを上の空で聞き続けた。
今流行っているグロスの色。
このパンプスは可愛いけど、歩きづらそう。
新しいパンケーキのお店、並ぶけど行ってみない?
「ねえ、このあおいっていうモデル、突然出て来たよね」
紀子がページを指差し、口をもぐもぐさせる。
「きれいな人」
園子は純粋にそう思った。
「なんでもパリコレに出たらしいよ」
「へえ。すごいね」
「頭もいいし」
「ふうん」
園子が連発する気のない返事に、紀子はとうとう頬を膨らませた。
「もう、どうしたっていうのっ」
おにぎりの紙くずを、袋に放り込んで、ペットボトルのお茶をごくごく飲んだ。