会社で恋しちゃダメですか?
園子はおにぎりを机に置いた。「ごめん」とつぶやく。
「何かあったのなら、言ってごらんよ。相談のるから。朋生のこと?」
「……うん、それも含めて」
「告白されたの?」
紀子が身を乗り出してくる。
「ちゃんとはされてないけど、個人的に映画に行こうって言われて」
「いいじゃん」
紀子がにんまりと笑う。
「それで?」
「ことわった。ちょっと、用事が重なってて」
「ふうん」
紀子が背もたれに身を預ける。腕を組んで園子の様子をじっくりと見た。
園子は思い切って口に出す。
「用事があって、よかったって、そう思っちゃった」
紀子が残念そうに首を振った。「かわいそうに、朋生」
園子は顔を伏せた。指でおにぎりののりを、ぴりぴりと破ってみる。
「それ言った?」
「言ってない」
「言いなよ」
「だって、なんだか申し訳なくて」
紀子が「余計な同情は、傷口を大きくするんだよ」と語気を強める。
もっともだ。
「朋生が嫌いな訳じゃないんだよね」
「うん」
「じゃあ、おためしで付き合うってこともアリだよ」
「それで気持ちが変わったりする?」
「することも、ある」
園子は朋生と一緒に手をつないで歩くことを想像してみた。
しっくりこない。
「園子の気持ち次第。早めにどうするか決めた方がいいよ。朋生もかわいそうだから」
紀子が新しいパンの袋を破って、一口ほおばる。
園子は「うん」と頷いた。
その次の瞬間、静かなオフィスに電話の音が響き渡った。