会社で恋しちゃダメですか?
紀子が手を合わせて「ゴメン」という。彼女の口はあんぱんでいっぱいだ。
園子は軽く頷くと、電話をとる。
「はい、竹永コスメティックスでございます」
「もしもし?」
鈴が鳴るような、美しい女性の声。
「はい」
「そちらに、山科達也さんはいらっしゃいますでしょうか」
「申し訳ございません。山科はただいま外出しております」
「そうですか……」
少し考えるような間があく。
「ご伝言をお預かりいたしましょうか?」
「では、折り返しお電話をお願いいたします」
「はい。お名前とお電話番号いただけますか?」
「本城あおいと申します。電話番号は090-****-****です」
「かしこまりました。わたくし池山がお受けいたしました」
園子は電話を切って、メモを書く。立ち上がって、山科の部屋にメモを置きに行った。
山科の部屋には、不思議と気配が残っている。園子は背中に山科が触れていた、その暖かさを思い出して、自然と頬があつくなる。
困った。
これだけで、胸が暴走をはじめてしまう。
キーボードの上に、メモを置く。
ふと顔をあげると、山科が部屋にはいってくるところだった。