会社で恋しちゃダメですか?
「今週末、長野に出向こう。池山さん、生産部とその話進めて」
「はい」
「この件は池山さんが行った方がいいな。工場従業員は女性中心だろう? 同性の方がいい」
園子はそう言われて、怖じ気づいた。営業事務としての仕事はしてきたが、出張なんて初めてだ。
「わたしで大丈夫でしょうか……こういうお仕事は初めてで」
園子が言うと、山科は再び考えだす。それから朋生の方をみる。
「俺もいき……」
朋生が言おうとした瞬間、山科は「僕が行こう」と遮った。
朋生の顔がこわばる。山科はその表情をあえて無視する形で「工場自体を一度見ておきたいと思っていたんだ」と付け加えた。
「日帰りで、スケジュール調整してくれ」
「わかりました」
園子は頷き、メモを取った。
朋生と山科、どちらと行っても、心が揺れる。でも一人では自信がないことも確かだ。
そこに、山科の携帯が鳴る音が響いた。山科は内ポケットに手を入れて、携帯を取り出すと、着信を見てとたんに難しい顔になる。山科は席を立ち、そのまま廊下へと出て行った。
シーンと静まり返った、がらんどうのオフィス。人がいないと、置かれているものがこんなに多かったのだと、気づかされる。ごちゃごちゃといろいろなものが目に入る。園子はそれを漠然と視界に入れながら、今しかないと心にきめた。
「山本くん」
「……何?」
「ちゃんと話がしたいの」
園子は言った。