会社で恋しちゃダメですか?


「あのね」
園子が話だすと、朋生はペンを置いて園子に向き直る。自信がなく不安そうな表情を見ていると、園子は心がくじけそうになってしまう。


「映画に行きたくなかったわけじゃないの」
「……うん」
「その日は本当に部長に言われて、仕事として行ったんだ」
「……」


朋生は、自分の袖をめくったり、のばしたりを繰り返す。どうしたらいいのか分からないようだ。


「でも、部長に仕事を入れられて、ほっとしたの。なんていうか、山本くんと関係を発展させることに……実感がわかなくて」
園子は続ける。


「山本くんが嫌いってことじゃないの。どっちかっていうと好きだし、でも、なんていうか……」
「わかるよ、友達でいたいってことだろ?」
朋生が力なく言った。


園子は小さく「うん」と答えた。


「部長と何かあるわけじゃないのか?」
朋生はちらりと山科の座っていた椅子を見て、言いづらそうにそう訊ねた。


園子は「ううん」と首を振る。


忘れてほしいと言われたのだから、何もないってことと一緒だもの。


「じゃあさ」
朋生が思い切ったように言う。
「恋人にならなくても、試しにどこかに遊びに行ったり、できるかな」


「友達として?」
「最初は友達として」
朋生が答えた。


「会社の俺しか見せてないし、なんていうか、もっと時間を共有したら何か変わるかもしれないだろう?」
朋生が言う。


それが『おためし』ってことなんだろうか。


園子は紀子の言葉を思い出す。何か気持ちが変わるかも。


この胸がつかえるような苦しさも。
思い返すたびに顔がほてる、この感覚も。
全部全部、変わるかも……。


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