会社で恋しちゃダメですか?
二人で作業をすると、あっという間に部屋が片付く。段ボールを倉庫に運び、空いているデスクセット、ファイルキャビネットを運び入れる。システム部からコンピュータを借りてくると、床から無造作に出ているLANケーブルに差し込んだ。電源を入れると、きゅーんと音がして、ハードディスクがかりかりと音を出し始める。
園子はやっと一息ついた。何気なく顔をあげると、自分の荷物をほどいている山科の姿が目に入る。ワイシャツの袖はまくり上げられ、細いけれど引き締まった腕が見える。荷物が空になった段ボールをたたむ時、ジャケットを着ていないから力が入るのがよく見えた。
なんだか恥ずかしくなって、園子はうつむく。
「池山さん、ありがとう」
山科は髪をかきあげて、それからシャツの袖を元に戻す。
「手伝ってくださったお陰で、早くできました」
「君が手伝ってくれたんだよ」
不思議な上司だ。こんなことを言ってくれる人は、この会社ではいない。田中専務なんかだったら、当然のことのようにどこかでタバコでも吸っているだろう。
「じゃあ、早速だけど」
山科がジャケットを羽織り直して、デスクに座る。園子はその前に立った。
「ここ五年の売り上げ推移が見たい。出せる?」
「はい」
「それから今日中に、各営業チームのリーダーと話がしたい。スケジューリングしてくれ」
「はい」
「その打ち合わせ前に売り上げ推移が見たいから、一時間後に僕のデスクに持って来て」
園子は目を丸くして、ただ「はい」としか言えない。一時間後に資料を出して、合間にスケジューリング? ダッシュでやらないと間に合わない。
「打ち合わせには、池山さんも同席だよ」
「はい」
「じゃ、今のところそれだけ。よろしく」
山科はさわやかな笑顔を見せると、コンピュータに向かう。
園子はあわてて部屋を出た。急がないと、全部間に合わない。