会社で恋しちゃダメですか?
三
工場は、長野の山奥。群馬に近い場所に立っている。人口も少なく、シルバー世代が多いところだが、高速道路のインターが近いことから、この場所に決められた。
新幹線に乗り、そこから私鉄に乗り換える。道中、山科とはビジネスの話しかしなかった。以前二人の間にあった楽しげな雰囲気は、どこかへ消えてしまった。上司と部下。完全で完璧な関係。
そのかいあって、工場での打ち合わせは、滞りなく行われた。パートの新規採用とスケジュール調整。雇用が増えることを地元の住民は喜ぶだろうと、工場長はうれしそうに話した。
帰りの私鉄電車。だんだんと夜が、山の緑を深い闇へと沈めて行く。無言で二人、並んで座った。
「うまくいくといいな」
「はい」
規則的な揺れで、時たま肩が触れる。スペースを空けるのも不自然だし、触れたままでいるのも不自然だ。こうやって、会社での毎日が過ぎて行くんだろうか。不自然なまま、でも、全部を押し込めて。
長野駅に降り立つと、もうしっとりとした夜が駅を覆っていた。
「切符買ってきます」
園子が券売機の近くまで行くと、いくぶん騒がしい。
なにがあったんだろう。
園子は首を傾げた。
駅員が改札横で何やらしゃべっていたので、園子は近くに寄った。
「電気系統の事故で、新幹線は運休しております。復旧の見通しはたっておりません」
駅員はそう言った。