会社で恋しちゃダメですか?


部屋はいわゆるビジネスホテルの簡素な作り。喫煙室なのか、ほのかにタバコの香りが残る。目の前に小さな窓。左手にクローゼットと小さなデスク、テレビ。そして部屋の大部分を占める、大きなダブルベッド。


扉が閉まるかちゃっという小さな音が聞こえると、園子はとたんにめまいがするほどの緊張感に襲われた。山科は鞄をベッドの上に置くと、園子と距離をとってベッドの上に腰掛けた。ジャケットを脱いで、ネクタイを指で緩めて外す。


「食べる?」
山科はベッドの上に放り投げられたコンビにの袋から、先ほど買って来たおにぎりやパンを取り出した。


「はい」
園子は、山科と充分に距離をとって、ベッドの上に座った。


二人で黙々と食事をする。時計を見ると夜の十時半。朝までにまだまだ時間がある。どうやって気を紛らわせたらいいのか。


「池山さんは連絡するところない? 心配する人とか」
「大丈夫です。一人暮らしですし」
園子はペットボトルから暖かいお茶を飲みながら、そう答える。


「山本は?」
山科が突然訊ねた。


園子の手がとまる。ペットボトルのフタをしめようとしたが、あわててキャップを落としてしまった。


「別に、大丈夫です」
「そうなのか?」
「……付き合ったりしてませんから」


園子が言うと、山科は「そっか」と言ったきり、黙った。


その沈黙がいたたまれない。


「部長は? どなたかにご連絡しなくてもいいんですか?」
「……別に、いいよ」
山科は首を振る。


「お見合いしていらっしゃるんですよね?」
園子は思わず聞いてしまった。口にしてから「しまった」と思い、慌てて口を閉じる。

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