会社で恋しちゃダメですか?
自分のデスクに戻ると、コンピュータに向かっていた紀子が「おかえり」と声をかける。
園子は余裕がなくて「うん」と頷くだけだ。
「いいなあ、園子。山科部長と一緒だ」
紀子がしゃべりたそうにしているのを感じながらも「ごめん、急いでるんだ」と牽制しておく。
「なんでそんなに慌ててるの?」
紀子が不思議そうに首をかしげるのを横目で見ながら、コンピュータで過去データを呼び出す。
「山科部長、たぶんいい人だけど、仕事の鬼かも」
「へえ、そうなんだ」
「間に合わせなくちゃいけないから、真剣モードに入るね」
「オッケー」
紀子は明るくそう言うと、自分の仕事に戻って行った。
こんなに超特急で、真剣に仕事をしたのは、入社以来久しぶりだ。猛烈な勢いで、資料を作成していく。その合間に打ち合わせのスケジューリング。営業は外に出てしまうと、なかなか連絡がつかない。やっと時間を決められたのは、資料提出の十分前。資料をプリンタから出力してチェックをして、急いで山科部長の席へと持って行く。
「失礼します。資料、お持ちしました」
「ありがとう」
コンピュータから顔をあげ、園子を見る。それから手を差し出した。園子は資料を手渡す。
「ミーティングは?」
「三時半には、各リーダーとも帰社しています」
「わかった」
山科はしばらく資料を読むと「よくできてる」と言う。
「ありがとうございます」
「これくらいの仕事をできないようなら、違う人と替えてもらおうと思ってたんだ」
園子の背中に汗が伝う。
「ミーティング前に、商品サンプルと、あれば試作品を用意しといて」
「はい」
「よし、頑張って。じゃあ、はい」
山科が園子の手にポンと何かを乗せる。
「チョコレート。さっきのお礼だよ」
そう言った。