会社で恋しちゃダメですか?
「池山さんを見てると、いったいどんな風に暮らして来たのかなあって、思う」
「それは……どういう?」
「きっと、いいご家族のもとで育ったんだなってこと」
山科はそう言うと、園子の顔を見つめる。
そして、突然、笑いだした。
「なっ、なんですかっ、突然!?」
なぜかいつも、山科は園子を見て大笑いする。園子は憮然とした顔で、山科の顔をにらんだ。
「くび」
「は?」
「ほら、首、首」
山科が手を伸ばして、園子の首をさわった。
園子の顔がかあっとあつくなる。ちょっと指が触れるだけで、身体が勝手に反応してしまう。
「タグがついてるよ」
「え? タグ?」
園子がとっさに首に手をやると、確かに商品タグがペロリと襟口から垂れていた。
「あっ、ついてる」
園子は引っ張ったが、当たり前だがとれない。
「気づかないかなあ、普通」
山科はにやにや笑いながら、タグをひっぱった。「かゆくないの?」
「気づくとかゆいです。と、とります」
園子はなんとか指でちぎろうとするが、プラスティックの細い紐はびくともしない。
「とってやろうか」
「はさみ、あります」
園子はベッドを出ると、鞄から小さな裁縫セットを取り出した。
「女の子だね、そんなもの持ってるなんて」
毛布のなかで、感心したような声を出す。
「お願いします」
再び毛布に入りながら、園子ははさみを山科に手渡した。