会社で恋しちゃダメですか?
「なに?」
園子は、ペットボトルのお茶を飲みながら、問い返した。
「モデルのあおい、いるでしょ?」
「し、しらないけど」
園子が言うと、「この間はなしたじゃんっ」と紀子が力強く反論する。
「あおいって、部長の彼女らしいよっ」
朋生が顔をあげる。「ほんと?」
「見た人がいるの。経理のニコちゃんがね、日曜日の夕方、二人で並んで歩いてるところ見たって。腕くんで」
紀子は興奮してまくしたてた。
「いや、いくらなんでも、そりゃガセだろ?」
朋生は信じられないというように、首を傾げた。
「だって、見たって」
「部長とあおい、どこに接点があるんだよ」
「さあ」
紀子は突然自信なさそうに、声が小さくなった。
「あおいかどうかはともかく、部長は見間違わないと思うよ。だってニコちゃん、部長のファンだもん。営業部いいなあっていっつも言ってる」
「じゃあ、彼女がいるってことは、本当かもな」
朋生がほっとしたような声で言った。
「しかも相当の美人」
紀子がさも見たかのような口ぶりで言う。
園子は無言で席を立った。
「園子?」
「あ、ちょっと、トイレ」
「いってらっしゃい」
紀子は暢気にひらひらと手を振った。朋生は神妙な顔をして、園子を見つめている。
園子はその視線を振り切って、席を離れた。