会社で恋しちゃダメですか?
祝日の太陽が暑い。
今日から連休を取るという人には、浮き立つような一日の始まりに違いない。
園子は山科のマンションの前に立った。築年数の新しい高層マンション。ロビーには花がいけられ、革張りの白いソファが置かれている。
園子は大きな紙袋をぶら下げて、山科の部屋番号を押した。
「はい」
「池山です」
「どうぞ」
ガラス張りの自動扉が開き、園子は山科の部屋へと向かった。ふと後ろを振り返ると、背の高いきれいな女性が園子の後ろから続いて入ってくるのが見えた。ショートカットに利発そうな瞳。少しふっくらとした唇が印象的だ。
なんてスタイルのいい人。
エレベーターの中に、彼女のフレグランスが充満する。ふわふわと甘い気持ちになる匂い。偶然にも同じフロアで降りた。
園子は紙袋の中身を確認した。ドレスにパンプス。それとアクセサリー。山科にエスコートされてパーティに行った日を思い出した。「きれいだ」そう言ったときの山科の表情を思い返す。
胸が痛んだ。
部屋の前でチャイムをならそうと立ち止まった。するとその女性が「あれ?」という顔をして、園子を見る。その女性は山科の部屋の右隣の住人のようだった。鍵をポケットから取り出して、きれいに整えられた爪で鍵を開けた。
「はい」
チャイムを鳴らすとすぐ、山科が扉をあけた。
「お休みのところ、失礼いたします」
園子は頭をさげた。
「いいよ、わざわざ悪かったね」
山科はこの間と同じようなルームウェアを着て、玄関に立っていた。
「これ、ありがとうございました」
園子は紙袋を手渡す。
山科はちょっと躊躇したものの、すぐに「ありがとう」と受け取った。
これで終わり。
園子は「それじゃあ」と言って、背を向けると「ちょっとコーヒーでも飲んで行く?」と声がかかった。
「でも」
「話したいこともあるから」
「……わかりました。じゃあ、ちょっとだけ。お邪魔します」
園子は誘われるまま、部屋の中に入った。