会社で恋しちゃダメですか?
「おい、あおい」
山科が女性を追いかけるように、リビングに入って来た。
「彼女の分もあるよ。みんなで食べようよ」
その女性は山科の制止もきかず、リビングへと入って来た。手の籠には焼き菓子が入っている。
山科は園子を見ると、申し訳なさそうな顔をした。
「コーヒー入れる?」
あおいは、当然というように、キッチンに立つ。華奢な首から肩にかけてのライン。Tシャツにデニムというシンプルな出で立ちなのに、どこかおしゃれで、まるでモデルのようだ。
モデル。
園子は紀子が見せた雑誌を思い出した。
そう、彼女。
本当のモデルだ。
あおいは頭上の棚から、カラフルなマグを二つ、それから白いマグを一つ取り出した。
あのマグ。
すごく使われていたみたいだった。
彼らのマグなんだ。
一つ一つが大きな衝撃となって、園子を叩きつぶしていく。
一緒に暮らしていた、忘れられない女性。
彼女がきっと、そう。
今、隣に住んでいて……。
また再び付き合いだした。
「池山さん?」
山科が心配そうに顔を覗き込むが、園子はずたずたになった胸のうちを知られたくなくて、必死に笑顔をつくった。