会社で恋しちゃダメですか?



翌日、心がずたずたになった園子は、重い身体を引きずるように出社した。


連休合間の平日。有給奨励日のため、出社している人は少ない。紀子は以前から計画していた旅行に行って不在。朋生は出社しているものの、取引先も休みが多いのか、外を回っていなかった。


なんだか関節の節々が痛い。目は泣きすぎてジンジンするし、喉もガラガラだ。


「園子、大丈夫か?」
朋生が心配そうにたずねる。


「うん、大丈夫。風邪薬のんだし」
園子はそう言って、仕事に戻った。


山科の部屋の扉が閉まっているのを見て、園子はほっとしている。顔を見たくない。
パソコンの画面を見ながらも、山科とあおいが並んでいる場面が、何度も頭をよぎる。二人だけが体験した特別な時間があって、それは揺るがない。並んだカラフルなマグ。部屋に似合わない、あのカップを大切にとっておいたことに、山科の気持ちが表れている。


相手が誰かだなんて、知りたくなかった。


人のいないオフィスに電話が鳴る。


園子はお茶を一口飲んで喉を潤すと「はい、竹永コスメティックスでございます」と電話にでた。


「もしもし。営業部の池山さんはいらっしゃいますか?」
女性の声。


「はい。わたくしですが」
園子は、聞き覚えのある声に、動悸が早くなる。


「あおいです。昨日は失礼しました」
「いえ……」
「今、会社の近くまできてるんです。もしよければ、ランチでもご一緒できませんか?」
「え……山科部長ではなく、わたしですか?」
「ええ。あなたと話したいんです」
あおいは言った。



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