会社で恋しちゃダメですか?


あおいは、興味はないと言っているのに、園子を無視して話し続ける。


「毎日、楽しかった。わたしたちを縛るものも、制限するものもなくて。朝でも昼でもかまわず、求めて、抱き合った」


園子は目を閉じて、あおいの言葉を聞き流そうと努力した。


「でもある日、彼の父親が……知ってますよね、どういう人か」
「はい」
「父親が乗り込んで来た。こんな女とここで暮らし続けるなんて、馬鹿なことを言うなと」
「……」
「お前は、会社を継ぐんだから、日本に戻ってこいって」


あおいはフォークを静かに置く。そして窓の外に目をやった。
「最初抵抗していた彼も、最後には父親に従った。わたしたちは、そのとき、別れた」


「大企業の社長だからって、あんな風に横暴にわたしたちを裂くことなんかできない。こんな女とは釣り合いがとれないって、そう言われているようで、本当に口惜しかったの」
あおいが微笑む。


「だから、彼が帰国した後、あの社長を見返してやろうと思った。名のある、釣り合いのとれた女になろうって。あの社長が『だめだ』って言えないくらい、いい女に。ねえ、池山さん」
「はい」
「わたし、いい女になったと思わない?」
「思います」
園子は素直に頷いた。


「デザイナーがわたしを指名してくる。雑誌の表紙に使われる。化粧品のCMにだって、起用されるぐらい、成功したわ。だから」
あおいが園子を見つめる。


「あとは、彼を取り戻すだけ」


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