会社で恋しちゃダメですか?


あおいの決意が見て取れた。本気で山科が欲しいのだ。


「なぜ、わたしにその話を?」
園子は思わず訊ねた。


わたしのことなんか、気にする必要もないのに。


あおいが寂しそうな顔をする。
「なぜかしらね……どうしてもあなたが気になって」


「部長は、あおいさんとの日々を、忘れていないと思います」
胸をえぐられる言葉を、自分から口にする。


「お見合いはすべて断っているようですし、結婚もしないって言っています」
「そう」
「何より……あのマグカップを、大切にとっておいてるってことが、証拠じゃないでしょうか?」
あおいの顔から厳しさが薄れて行く。


「わたしが手にしたとき『それは使わないでくれ』って、そう言いましたから」


泣きそう。
でも泣いては駄目。


園子は爪が跡をつけるほど、強く手を握りしめた。


「あなたがそうやって言ってくれたから、少し安心した」
あおいが笑顔を見せる。


「あなたと話せてよかったわ」
あおいの顔は、まるで雑誌から抜け出て来たように、完璧で美しかった。


< 96 / 178 >

この作品をシェア

pagetop