会社で恋しちゃダメですか?
あおいの決意が見て取れた。本気で山科が欲しいのだ。
「なぜ、わたしにその話を?」
園子は思わず訊ねた。
わたしのことなんか、気にする必要もないのに。
あおいが寂しそうな顔をする。
「なぜかしらね……どうしてもあなたが気になって」
「部長は、あおいさんとの日々を、忘れていないと思います」
胸をえぐられる言葉を、自分から口にする。
「お見合いはすべて断っているようですし、結婚もしないって言っています」
「そう」
「何より……あのマグカップを、大切にとっておいてるってことが、証拠じゃないでしょうか?」
あおいの顔から厳しさが薄れて行く。
「わたしが手にしたとき『それは使わないでくれ』って、そう言いましたから」
泣きそう。
でも泣いては駄目。
園子は爪が跡をつけるほど、強く手を握りしめた。
「あなたがそうやって言ってくれたから、少し安心した」
あおいが笑顔を見せる。
「あなたと話せてよかったわ」
あおいの顔は、まるで雑誌から抜け出て来たように、完璧で美しかった。