会社で恋しちゃダメですか?
熱が出て来た気がする。寒くてたまらないし、くらくらしっぱなしだ。コンピュータの画面がちかちかして、徐々に頭も痛くなってきた。そろそろ終業時間。身体にだけではなく、心もいまは大きなダメージを受けている。本当に今日は早く帰らなくちゃいけない。
山科は午後から外出していた。園子が呼ばれることもない。スケジュールを把握していなかった。意図的に避けられているのか、それとももう、仕事において信頼できないと判断されたのか、わからない。とにかくでも、顔を合わせないことで救われていた。
午後中デスクワークに集中していた朋生が顔をあげる。
「園子、具合悪そうだぞ」
「うん、そうみたい。もう帰る」
園子は力を振り絞って、そう答えた。
「おつかれさまでした。連休、楽しんで」
出てきていた社員たちが、うれしそうにオフィスを離れる。いつもはしばらく残業している人たちも、今日ばかりは終業とともに席を立った。
園子も帰り支度をする。何か動作を一つするごとに「ふう」と溜息が出てしまった。朋生が側にきて、紀子の席に座る。園子のおでこに手を触れた。
「あついっ」
朋生が驚いた声を出した。
「そんなに?」
「うん、まずいよ、これ。家まで送って行こうか?」
「いいよ、悪いし。タクシー乗るから」
「でもさあ」
「大丈夫だって」
園子がはっきりと断ると、朋生はそれ以上言うのをやめた。
「男の俺が、園子んちに上がり込むわけにもいかないしな」
朋生が言った。
「ごめんね、でもありがとう」
「いいって。早くなおせよ」
「うん」