笑顔の理由、涙の理由
春が来た
4月だといっても吹く風にはまだ冬の名残を感じる今日、私は高校の入学式を迎えた。
真新しい制服に身を包み、傷一つないピカピカのローファーに足を通した。玄関の全身鏡に映った自分は、まだ見慣れなくて全くの別人のように思える。
新生活はいつだって、たくさんの不安と少しの期待が入り混じった感情を連れて来る。緊張で早まる鼓動を収めるように胸に手を当ててから、玄関のドアに手をかける。
「ちょっと、沙友梨!忘れ物はないかちゃんと確認したの?ハンカチ、ティッシュ、あと筆記用具と…」
「もー、ママ昨日ちゃんと確認したから大丈夫だって!いってきます!」
心配症な母に振り向きながら答えて家を出た。一歩進む度に高まる鼓動を感じながら、学校へ向かう。
「あ、桜…」
家から15分程のところにある公園の桜が綺麗に咲き誇っていた。
「キレー…」
空の青色と桜の桃色のコントラストがとても綺麗で、思わず空を仰ぎ声を漏らしてしまった。ふと桜の木の幹に視線を移すと、桜を見つめている男の子がいた。私と同じ高校の制服を着ていて、同じように空を仰いでいた。
私と違うのは、無表情で桜を見つめているという事ぐらいだ。
「…一年生?」
ふいに声をかけられハッとした。いつの間にか、桜を見つめていた男の子が私の方を見ていた。
「え!何でわかるんですか?」
「だって、制服も靴も新品じゃん。そりゃわかるよ」
クスッと微笑んだその笑顔は、さっきの無表情は見間違えだったんじゃないかと思うくらい素敵だった。
「俺も今日からイチネンセー、また会えるといいね」
空に向かって咲き誇る桜みたいに、優しく穏やかな笑顔にドキリと胸が高鳴った。
ひらひらと手を振って男の子は去って行った。
何だか、少女漫画みたいな出逢いだなあ…。なんてのんきに考えハッとする。
「あっ!急がなきゃ、遅刻する!!」
真新しい腕時計に目をやれば予定よりも10分過ぎている。