腹黒教師の甘い策略


「……谷崎先生。」

「こんにちは、有沢先生。
調子はどうですか?って最悪でしょうね?」


驚く私を見て、そう言ってにやにやと
笑う谷崎 幸人。
……通称、“フェロモン教師”
彼は女子教員の間でそう呼ばれている。


性格に問題ありだがこの男、極上のイケメン。
惚れる女子生徒も教員も少なくない。


……正直言って、私はこの男が苦手、
というか嫌い。


「……最悪ってなにがですか?
ほっといてくれません?」


睨む私をよそに、いまだ微笑む谷崎。
口角を上げて、嫌みったらしく笑っているのに、それでも無駄に綺麗な顔をしてるのが余計にむかつく。
不機嫌な私の心情を知ってか知らずか、谷崎は可笑しそうに口を開いた。


「ほっとけないです。
こんな面白いこと。」

「なにが面白いんですか……!」

まるで新しいおもちゃを買ってもらった子供のような期待に満ちた目で私を真っ直ぐ見据える谷崎。
眼鏡の奥の切れ長の目を細めながら、微笑んでいる。
一切表情を変えないその笑顔にまたイラッとした。

……人をどれだけバカにすれば気が済むの。
こいつのこういうところが嫌い。


「お前、戸川と付き合ってるんだろ?」

「な、なんで知って……っ」


保健室でいちゃつく二人に気づかれないように
ひそひそと話していたが、
谷崎の言葉に思わず声をあげる。


付き合ってたのは誰にも言ってなかったのに……
それどころか、バレないように
気を付けてたのに、


「なのに、どうして……っ」

言った瞬間に手にじわりと汗が滲んだ。
私の全身がこいつは危険だと知らせてくれるセンサーように。
戸惑う私に、谷崎は、
しーっと、人差し指を私の口元にあてた。


「……戸川に気づかれたいのか?
まぁ、俺はそれでもいいけど。」



谷崎はそう言うと、私の反論なんて
聞こえないふりをして、おもむろに
かけていたメガネをはずした。




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