腹黒教師の甘い策略
「……やっぱりちょっと気分が悪いから、
今日はそのまま帰るよ。」
「そう?じゃあ、また連絡するよ。」
そう言って私よりも綺麗な黒髪をなびかせて踵を返して去っていく聖司。
……お大事に、の一言もないんだ。
あっ、やばい、なんか……、
「……泣きそう。」
ぼそっとそう呟いた瞬間に、
次第に視界が滲んできた。
聖司の後ろ姿がよく見えない。
……バカみたい。でも仕方ないじゃない。
それくらいの気持ちだったのよ。それくらい気持ちが大きかったのよ。
捲ったシャツの袖から見える腕も、
すらりと伸びた足も、
広い背中も、優しいところも全部、
「……大好きだった。」
呼吸をするように呟いた瞬間、
目の前が真っ暗になった。
「お前って、強情なくせにすぐ泣くんだな。」
「谷崎……。」
涙が滲んだ私の目を、
谷崎が後ろからその大きな手で覆っていた。
こいつはいつもタイミングが悪い。
どうしてそう私が泣いてるとき限ってに谷崎が来るんだろう。
どうにかして涙を止めようとしても、一度流れたものはそう簡単には止まってくれない。
「今は授業中で、生徒も教師も
来ないから、今のうちに泣いとけ。」
谷崎は私の目を覆ったまま、
保健室に入って鍵を閉めた。