『特別』になりたくて
会長と遭遇し、流れでプリント運びを手伝った後、それぞれ鞄を持って帰路を歩いている訳だけど……。
驚く程に会話がなく、沈黙が空気を重くする。
お礼を言おうと思っていたのに、沈黙が気まずくてそれどころでは無かった。


「……」
「……」

 
無言のままやがて帰宅場所である寮が見えてくる。
このままでは駄目だと思い、立ち止まって声を発した。


「あ、あの! 試験の時は……有難う御座いましたっ……」

 
何とかそれだけ言うことが出来て、前を歩いていた会長が立ち止まり振り返らないままに言う。


「別に当然の事をしただけだし……それに今日は僕の仕事手伝ってくれたんだしおあいこでしょ?」

 
そういった会長の声はどことなく優しくて、振り向いてくれないのは照れ隠しのようなそんな気さえした。
 
よかった、怒ってたりしたわけじゃないみたい。
それだけなのに安堵している自分がいて、迷惑を掛けて嫌われたんじゃないということに緊張が解ける。


「何笑ってるの? ほら早く行くよ!」

 
いつの間にか後ろまで引き返してくれた会長にそう言われる。
寮はもうすぐ目の前で、数分前までは沈黙が苦しかったのに……。
今はもっとこうして二人でいたいとそう思う私が居る。

 
なんて、都合が良すぎるかな?

 
そんな思いを抱える間にも歩みは進めるわけで、寮につくまで五分と掛からなかったのはやっぱり残念だった。
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