もう、きっと君と恋は始まっていた
『ふーん。
じゃ、崇人、あたしと付き合お?』
……へ?
奈々の言葉に、私、そして崇人のじゃれあいが一時休戦した。
『……え……?』
思わず私は奈々に聞き返す。
『だーかーら!
崇人、あたしと付き合おって言ったの♡』
完全に語尾に♡がついていたような気がするんだけど…
目の前にはニコニコと眩しい程に輝く、奈々の笑顔があって。
私は思わず、視線を崇人に変えた。
そこにはポカーンと口を開けたままの崇人の顔があって。
うん、どう見ても、誰がどっから見ても、ただのアホ面にしか見えなくて。
『いや?』
でも、奈々は言葉を続けた。
『…いや…っていうか…』
崇人は隣に座ってる由樹君の顔に視線を向けた。
…だよね?
崇人も思ってるかと思うんだけど、奈々がそんな提案するとかないよね?
だって、奈々の目の前、崇人の隣に腰掛けてる、由樹君こそが奈々の本命でしょ?
それなのに、奈々は何、言い出して…
『あ!お酒!』
私は奈々のコップの中身を鼻でかいだ。
そうそう、こういう時って、お酒と間違ってて変なことを言いだした、そんな感じだよね?
でも、奈々のコップからはアルコールの匂いが全くしなかった。
『……奈々?』
私は奈々の顔を見つめ、“冗談だよー”の言葉を待っていた。
けど。
奈々はクスッと笑って、
『素面、それに冗談でもない。
崇人、あたしと付き合ってよ、ね?』
そう言った。