もう、きっと君と恋は始まっていた




『……はぁ…はぁ……』


待ち合わせ一分前に到着した私と崇人。

息を乱しまくりの私に対して、崇人は息一つ乱していない。




『相変わらず、知佳、足おせーよな?
 マジで時間に間に合わないと思ったわ…』


何事もなかったように、あっさりとそんなことを言う崇人に私は軽く睨みつけた。





『…あーのーねー!!
 崇人が待ち合わせに遅れなければ走ることなんてなかったんです!!
 もー…本当に最悪!!』



私が崇人にそう叫ぶと、崇人はクスって意地悪く微笑んだ。


そして、私の耳元に、自分の口を近づけて…




『でも、俺は知佳のこと、好きだけど?
 全力疾走で崩れた髪型も、その服も可愛い…』


…そう、耳元で囁いた。



崇人の言葉に、私の顔は一気に赤く染まった。





『……なによ、それ~…』


でも、今日のために、崇人に可愛い、そう思ってもらえるために、苦手なヘアアレンジも頑張ったし、それにこの服も選んだ訳で…


崩れてるのは悲しいけど、でもちゃんと気づいてくれてたんだ…


そんな些細なことに、さっきまでの怒りも消えて、つい私の口元もほころんでしまった。






『単純な奴』


崇人はそう言って、また意地悪く、でも私をいつもドキドキさせる、その笑い方で、笑った。




< 104 / 110 >

この作品をシェア

pagetop