もう、きっと君と恋は始まっていた
『……はぁ…はぁ……』
待ち合わせ一分前に到着した私と崇人。
息を乱しまくりの私に対して、崇人は息一つ乱していない。
『相変わらず、知佳、足おせーよな?
マジで時間に間に合わないと思ったわ…』
何事もなかったように、あっさりとそんなことを言う崇人に私は軽く睨みつけた。
『…あーのーねー!!
崇人が待ち合わせに遅れなければ走ることなんてなかったんです!!
もー…本当に最悪!!』
私が崇人にそう叫ぶと、崇人はクスって意地悪く微笑んだ。
そして、私の耳元に、自分の口を近づけて…
『でも、俺は知佳のこと、好きだけど?
全力疾走で崩れた髪型も、その服も可愛い…』
…そう、耳元で囁いた。
崇人の言葉に、私の顔は一気に赤く染まった。
『……なによ、それ~…』
でも、今日のために、崇人に可愛い、そう思ってもらえるために、苦手なヘアアレンジも頑張ったし、それにこの服も選んだ訳で…
崩れてるのは悲しいけど、でもちゃんと気づいてくれてたんだ…
そんな些細なことに、さっきまでの怒りも消えて、つい私の口元もほころんでしまった。
『単純な奴』
崇人はそう言って、また意地悪く、でも私をいつもドキドキさせる、その笑い方で、笑った。