もう、きっと君と恋は始まっていた
由樹君は唇を離して、そのままの近距離のままで私を見つめる。
由樹君の視線に、私はどんどん引き込まれていく。
『知佳、もう痛くない?』
こんなに近距離で、由樹君はそう問いかけてくる。
あまりの近さに、由樹君が首を傾けたら、きっと今度は唇同士で触れ合えるくらい…
『……い…痛くないよ…!!?』
私は咄嗟に顔を下に向けて、そう答えた。
『知佳?』
私が顔を下にしたからだろうか、由樹君は私の名を呼ぶ。
『知佳、可愛いね』
何も答えられないでいる私に代わって、由樹君がそう言った。
思わず顔を上げると、そこにはすっごく優しい顔をした由樹君の顔があって。
『………』
私はまた何も言えずに俯いてしまった。
『知佳、キスでもする?』
由樹君の言葉に、その場所で刻んでいるだろう時間が止まった気がした。
『……………え……?』
その言葉が精一杯の私の顎に、由樹君の細長い、綺麗な指が触れる。
そして、そのまま顎を上げられて、目の前の由樹君と目が合った。
と、同時に…
由樹君は私の頬にキスをした。
『………へ……!!?』
私の素っ頓狂な声に、由樹君は頬から唇を離して、クスッと笑った。
『大丈夫だって、知佳。
俺は俺を好きだって言ってくれる女の子にしかキスはしない主義だから』
由樹君はそう言って、また笑ったけど。
もし、私が“好き”だと言ったのなら。
奈々という本命がいながらも、私とキスをするんだろうか…。