もう、きっと君と恋は始まっていた
でも、由樹君に何も聞けなかった。
ただ隣を歩きながら、由樹君のあの言葉の意味だけを考えていた。
『知佳』
そう呼ばれて、ハッとして前を見ると、由樹君が心配そうな顔をしながら、私の顔を覗き込んでいる。
『…あ……え……?』
突然の出来事に、私は由樹君と目を合わせ、そしてしどろもどろに返事をした。
『もう着いたけど、何か観たいのでもある?』
由樹君に言われ、周りを見渡すと、そこはもう映画館の中だった。
もう少し真正面に歩くとチケット売り場があって、私たちが止まってるすぐ横には上映している映画のポスターが壁一面に貼られていた。
『どんだけ真剣に悩んでんだよ?』
『…へ……あ…映画…えっと、何にしよっか…?』
『映画、じゃなくて、さっきの俺の言葉について考えてたんだろ?』
……図星です。
またもや言い当てられ、私は由樹君に聞こうかと思った。
でも、なんて聞いたらいいのか分からないし…。
『何を見るか決まったら教えてあげるよ』
私は、その言葉に勢いよく、由樹君の顔を見た。
なんで、この人は本当に私が考えていること、思ってることを先回りをして、私に伝えてくれるんだろう…?
そんなに私、分かりやすい顔をしてるのかな…?