もう、きっと君と恋は始まっていた
『……絶対?』
私が聞き返すと、由樹君はクスって笑って、首を縦に振ってくれた。
『だから、知佳、今から何見る?』
由樹君は微笑んだまま、上映しているもののタイトルを一つ一つ口にした。
由樹君は嘘、つかないもんね…?
だから、今はとりあえず映画を決めて…
私はある一つのタイトルが目に入る。
そこにはこてこての恋愛物の映画で、今、中高生を中心に話題になってるもののタイトル。
『知佳、これがいいの?』
男の子なら、絶対に選ばない、そんな映画だよね…
でも、由樹君は嫌な顔一つ見せないで、そう問いかけてくる。
『…え………あ、他のものでも』
『正直に』
由樹君は私の言葉を遮って、そう言う。
『本当は……観たいです…』
私の答えを聞くなり、由樹君は、
『正直でよろしい』
そう言って、そのままチケット売り場まで歩いて行った。
私は置いていかれないように、由樹君の隣をキープして合わせて歩く。
『…あの映画、こってこての恋愛物だよ、本当にいいの?』
私は念を押すかのように、再度、由樹君に問いかける。
『今日は知佳が楽しんでくれればいいよ。
知佳が楽しいと俺も楽しいから』
そう、由樹君は笑って答えた。
由樹君のこういうところ。
自分よりも人、こういうところも、私は大好きだったな…。
たまにはもっと自分を出しなよ、って思うことも多々あったけど。