もう、きっと君と恋は始まっていた



『由樹君ってさ…本当に優しいよね。
 どっかの誰かと全然違う……』



そこまで言って、私は口元を押さえた。


由樹君も”ん?”って顔をしてる。


私も自分の心に、“あれ?”と問いかけた。




なんで、こんな時に“アイツ”が心に浮かんだんだろう?


どうして、“アイツ”なんかを口にしちゃったんだろう?






『あいつって、もしかして崇人?』




由樹君の口から、アイツの名前が出てきて、更に動揺してしまう…。





『知佳と崇人ってさ、本当になんでもないの?』


私の答えを聞く前に、由樹君はサラリとそう問いかけてくる。




『…なんでも、って?』


私は由樹君に聞き返す。





『質問に質問返しはないでしょ、知佳?
 俺が先に問いかけたんだから、まずは俺の質問に答えて』



そう言った時の由樹君の顔は、少し真面目で、少し怖かった。





『……崇人のこと、好き…とかってこと?』



私のその言葉に、由樹君は首を縦に振る。


言葉なしの、その動作だけで伝わってくる。


ここで誤魔化したりしちゃダメだってこと。


きっと、この人に嘘や誤魔化しなんて効かないだろうし。





『……分かんない』


私がそう言うと、由樹君は首を傾げた。





『なんで?
 自分の気持ち、でしょ?』










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