もう、きっと君と恋は始まっていた





『ちょ…崇人…!』


崇人に手を引かれるまま、映画館の外にまで来た、私たち。


私の呼びかけに、崇人は歩く足を止め、そして頭をキョロキョロと動かし、入口からすこし離れたベンチの所まで、私の手を再度引いていく。





『座れよ』


崇人に言われ、ベンチの端っこに座る。


その後に、崇人もベンチに腰掛ける。


隣同士に座ってるにも関わらずに、崇人は何も話さない。


もちろん私も何を話していいか分からなくて、何も言えない。



ただ、静かに流れていく時間、映画を心待ちにしてウキウキと歩みを進めるカップルや親子を何組か見守ったところで、崇人が口を開いた。







『お前さ、もっと楽しい顔、すれば?』



崇人の言葉に、私は崇人の方に視線を向ける。




『ずっと好きだった由樹とのデートなんだろ?
 緊張すんのは分かるけどさ、傍から見ればお前らカップルなんだぞ?
 もっと楽しい顔してなきゃ、由樹もつまんないじゃん?』




最もな意見だ。


崇人にしては最も過ぎる意見だということは分かる。




緊張…


そりゃ、ちょっと前までは由樹君、一筋だった訳だし。


こんな風に、一緒に映画館とかに来れば、“彼氏彼女”なんだって、そう思っちゃったり…


楽しいもん。

楽しすぎるくらい、楽しいもん。




あんたと付き合った時には思えなかった、そんな感情だって由樹君にはあるし。





けど。


それをぶち壊したのは、あんたじゃないか…









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