もう、きっと君と恋は始まっていた






『忘れてるよ、俺は』




君は、でもそう言ったんだ。



でも、君の言葉に自分の中で疑問が湧いて出る。





“忘れてるよ”


なら、どうして、君はそんな顔をするのか。


どうして、君は“別れ”を切り出したのか。





ねぇ、なんで?




でも、崇人の痛いくらいの視線に言葉が詰まる。





『けど。
 俺は忘れてても、知佳は違う。
 知佳はまだ由樹のことが好きなんだよ。
 それなのに一緒にいても意味ないっていうかさ…』



そう君は言うけど。


君が言ったんだよ?




“お互いに好きな気持ちがあってもいい。
 その代わり、苦しい時は頼れ。
 泣きたい時は呼べ”


君は奈々を、私は由樹君を想ってるままでいい、そういう契約内容だった。



なのに。


そんな君が、何故、そんなことを言うのか…。






『それに。
 俺、好きな奴できたから』



あぁ…そっか。


静かに、君が言い放った言葉を聞いて納得する。





『…そっか…なるほど!
 私はいらないってことか、そうだよね、今度はその人がいるんだもんね?』


左手をグーにして、開いた右手の平にぶつけ、わたしはそう言った。




それが、君の本音。



うん、だから、私は君のその言葉を受け取らなきゃいけない。





『知佳』


泣きたい訳じゃない。

でも、君の私の呼ぶ声が優しすぎて。





『…ごめん』


君がそう謝るから。


一気に、涙が溢れだしそうになった。




“別れるのに、泣いちゃダメだ。”



そう頭の中で何度も言い聞かして、私は勢いよく、その場を走り去った。





< 3 / 110 >

この作品をシェア

pagetop