もう、きっと君と恋は始まっていた
ローボートに乗ったはいいものの。
由樹君と奈々は楽しそうに笑い合ってるけど。
私と崇人の間に会話が生まれるもなく、崇人は一人で黙々とオールを漕いでいた。
そんな時でも風が吹く度に桜が舞って、一面をピンク色に変えていく。
『……キレイ…』
思わず出た、その言葉に崇人もオールを漕ぐ手を止めて、辺りを見つめた。
『ねぇ、崇人?』
私の呼びかけに、崇人は私の方へと視線を変えてくる。
再び合った視線にドキッとした。
『なんだよ?』
『…うん、崇人は今、幸せ?』
さっきの由樹君の言葉を鵜呑みにしたわけじゃない。
ただ、私が崇人が今、幸せかどうか聞きたかった。
『幸せ、かな…』
崇人はそれだけ言って、また視線を辺りの桜に戻す。
『やっぱり崇人の幸せには奈々が必要なんだね』
『お前も、だろ』
崇人は言葉は返してくれるけど、こちらを見ようとはしない。
そこに、由樹君と奈々が近づいてきて、“よ”、そう声を掛けてきた。
やっぱり、この二人が一緒にいると、すごくいい二人に見える。
でも、やっぱり崇人は由樹君や奈々の方に顔を向けない。
やっぱり、奈々のことが好き、だから…
見るのが辛いんだね…
声を聞くのも辛いんだね…
『お邪魔しました』
奈々の言葉に、ようやく崇人は二人の方に視線を向けた。
でも、二人はどんどん私たちのボートから離れていく。
崇人はただ、その離れていくボートを見つめていた。
まだ、崇人の奈々への想いが消えてないことを、私は確認した。